真言宗智山派吉祥院珍珠山

仏教コラム

風信(かぜのたより)No.28

 古いものの良さがわかるようになる時が誰にでもあります。良いものだから長い歳月を経て大切にされてきた。だから古くなったと考えることもできます。温故知新(おんこちしん)の精神もそれに通じるのでしょう。古きを訪ね、新しきを知る。「古くなったものから良いところを学び、それを生かして新しいものを生み出す。」老いることは一見、みにくい姿をさらして、わずらわしいと感じることもありますが、その反面、年輪によってにじみ出る色つや、経験によって培われてきた知恵も、かけがえのない素晴らしいものであることも確かです。
 室町時代の能楽師、世阿弥は『花鏡』という書物に「是非の初心忘るべからず。時々の初心忘るべからず。老後の初心忘るべからず。」と記しています。古きものが良きものとして輝きを放つには、一方でこうしたことを心がけることが大切だと説いてくれています。
 おとうさん、おかあさん、おじいさん、おばあさん。ご先祖さまから脈々と受け継がれているものが確かにこの内に流れている。いつかきっと、そのことを感じる時があります。もしも、そのことに早くから気づくことができればラッキー! なかなか気づくことができなければ・・・・これから先にいっぱい感じて行けばいいでしょう。あなたはあなたひとりでこの世にいるわけじゃない。ご先祖さまから受け継がれた性質や慣習や考え方、愛したり、笑ったり、泣いたり、怒ったり。そうした一切は、いろいろと受け継がれてきたもの、そして、生まれてからあなたに寄せられてきた愛情、宇宙や自然の恵みによって、今のあなたが成り立っているはずです。
 あなたのお家にあるお仏壇、菩提寺にあるお墓。そこは、ご先祖さまからつちかってきた多くの財産、恩恵がぎっしり詰まった空間です。身近にあるお仏壇を毎日拝む。盆と正月、春秋のお彼岸、そして故人の命日にできる限りお墓参りをする。自分の恵みとなったさまざまなことに感謝し、その恩に報いる。さらには、故人の年回忌にできるだけ多くの親族や縁ある人を招いてご法事を行い、故人の思い出をみんなで語り合う。そうした功徳を積む重ねることが、自らの生きる意味をみつめる機会にもなるのです。
 真言宗の教主・大日如来は、あなたとあなたの家族、そして、ご先祖さまをいつも守っています。お仏壇の正面の一番奥にお祀りしている仏さまが大日如来です。また、お墓の「○○家先祖代々」と記されている文字の一番上には、その大日如来のイニシャル「  (阿)」字が刻まれています。これは私たちがお仏壇もお墓も手を合わせておがめば、その願いが大日如来に伝わることになるのです。
 どうぞ毎日お仏壇を拝んで、機会があればお墓をお参りしてください。ご先祖さまに感謝して毎日手を合わせれば、きっと心に何かの支えが育まれるはずです。目に見えないもの、手に触れられないものを信じられるということ。それがいつか、あなたに安らかな心地をもたらします。

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