真言宗智山派吉祥院珍珠山

仏教コラム

西行


 西行は、なぞの多い伝説的な人物と言われています。花を愛(め)で、月【悟り】にのぞんだ歌を詠ませれば、右に出る者がいないとも評され、当時の歌人たちの間でも、天才の名を欲しいままにしてきました。実際に、古今和歌集にも九十首、他の誰よりも多くの歌が選ばれています。その西行が、伊勢神宮を初めて詣(もう)でた折にこの歌を詠みました。結局、西行はこの後、数年にわたって伊勢神宮に滞在し、神官たちに和歌の手ほどきをしたとも伝えられています。
 この歌は「西行法師家集」に収められているのですが、最近では、インターネット等で、日本人の宗教心、精神性を紹介する際に、この歌が引用されているのを目にします。目に見えるものでも、手に触れられるものでも、言葉にできるものでもない。けれど、ジーンとありがたい、ただただ、おごそかで、もったいない気持ちが、自然とこみ上げてくる。日本に古くから伝わる心のありようを、そっくりそのまま表現しているような気がします。
 それからおよそ千年の後、いまを生きる私たちにも、この言葉から、腑に落ちる感覚、「うん、わかる、この気持ち!」と共感できるものがありませんか? 西行の想いが時空を超えて、伝わってくるのではないでしょうか。宗教や宗派を問わず、カミ・ホトケが渾然一体(こんぜんいったい)となって、私たちの血の中に脈々と流れている、受け継がれている感触、ぬくもり。「日本人は無宗教だ」なんてとんでもない。この歌に込められた想いを、直感として「わかる」と感じられるあなたは、立派な日本人の宗教心を心に刻んだ人物であることは、間違いない!そう言い切れます。

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