真言宗智山派吉祥院珍珠山

仏教コラム

種田山頭火


 山頭火は、漂白の俳人とも、行乞(ぎょうこつ)の俳人とも呼ばれた人でした。冒頭の句は、山頭火、53歳の春三月に、それまで住んでいた其中庵(ごちゅうあん)から旅立つまさにその時、日誌に「物みな良かれ、人みな幸(さち)なれ」と記した言葉にそえられた一句です。
 親しい人、お世話になった人、大切な人、多くの人の幸せと平和を願う。ただ、それは、ひるがえって思いをめぐらしたときに、「誰かが自分のことをそう願っていてくれるはず……」ということにもなるでしょう。
 きっと、誰かが、あなたの健康を、幸せを、願っていてくれるはずです。昭和の始めに、山頭火がそう願っていたように。いつか、どこかで……。
 あなたが想う人たちの輪を少しずつでも広げてゆきましょう。いきなり、山頭火のようにはいかなくても、その心持ちを大切にしたいものです。あなたのその想いが広がり、深まってゆくほど、それは椿の赤い色に近づいてゆくことになります。そして、誰からも慕われる存在、心に残る人柄となるのでしょう。自然と、いつのまにか…。
 振り返った時、目に焼きつくほどの椿の赤い色。生きていく以上は、そんな印象深い、心に残る瞬間を抱けるようになりたいものですね。

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