真言宗智山派吉祥院珍珠山

仏教コラム

毘沙門さまの功徳心を明るくする福の神

その1

 これからしばらくの間、七福神(しちふくじん)のご信心は、どのようにおこなわれてきたのかということ。そして、今日の会場のお寺になっております、この吉祥院のご本尊でもある毘沙門(びしゃもん)さまの功徳(くどく)について、いろいろ考えてまいりましたので、話を聞いていただきたいと思います。

 今日は大変お日がらがいいようでございまして、皆さんもこちらに来るまでに結婚式に出席される方々とたくさん出会ったと思います。ですから皆さんは、この後の二時からのご法要では、まず自分の家が家内安全であるとか、心身が健康であるとか、そういうことをご祈願するのと同時に、今日結婚して、これから人生を築いていく若い二人の門出に際しても、是非(ぜひ)幸せになるように、良い家庭が築かれるように、そういうことも併(あわ)せてご本尊、毘沙門さまにご祈願していただくことが何よりかと思います。

 ところがですね、私は同じ埼玉県の寄居(よりい)町に住んでおりますが、お年寄りから昔の話を聞きますと、農家の人ですから、朝早く起きておてんとうさまを拝む。その時、おてんとうさまに向かって「今日一日、我は良かれ」と拝む。そうして隣近所の人にも良いことがあるようにと「他人も良かれ」と拝むのだそうです。しかし、その次に、でも、おてんとうさま、私のところにはよその人よりも、もっと多く福徳(ふくとく)が下がりますように、「我はさらに良かれ」と願うのだそうです。これが人間の情だと思いますが、自分が幸せになっていく以上は、周りの人たちも幸せになっていくということを、願っていくことが考えられると思います。

 さて、私がこのお寺におじゃまするのは二回目になりますが、今日も門をくぐりますと、左側の掲示板に法語が書いてありました。「誰もが持っている思いやりの心を、回(まわ)りの人、他人に向けていこう」という法語が書いてありました。この前は違う言葉でしたから、お檀家の皆さんや、ご詠歌(えいか)の皆さんは、このお寺にきて門をくぐると、「今日は何が書いてあるのかな」と思うことでしょう。それを見て、自分自身を少し考えなおしたり、まだまだ足りないなと考える人も大勢いらっしゃるかと思います。今日の話の締めくくりには「誰もが持っている思いやりの心」ということも考えてみたいと思っています。

その2

 それでは、最初に七福神はどういう福の神なのか、そこから考えてみましょう。ここで問題は「福の神」というと、神さまのことだからお寺ではなくて神社ではにのかな、お寺は仏さま、神社は神さまという区分けをする人が多いわけですが、これは明治の頃からのようです。それ以前は一緒のものとして考えていたわけです。「神さま」という言葉を使わない代わりに、こちらは毘沙門さまですから、毘沙門天というように、「天」という言葉がついています。大黒天(だいこくてん)、弁財天(べんざいてん)、みんな福の神ですね。天という言葉はインドの言葉に由来するのですが、優(すぐ)れた神々を「デーヴァ」といいました。それを中国の人たちは漢字で「天」と写しとったのです。そのデーヴァとはどういうことかというと、光り輝くもの、きらきら輝くものという意味なんですね。つまり私たちにとって困ったり、悩んだりしている時、その暗くなった心を明るく輝かせてくれる、モヤモヤしたものをスッキリしたいい気持ちにさせてくれるもの、それをデーヴァと呼んだわけです。

 漢字で書きますと「神々しい」とか言いますが、要するに私たちの気持ちとしては自分よりも尊いもの、優れたもの、私たちの心を明るくしてくれるもの。それを天と呼び、神さまと呼び、仏さまと呼んだわけです。もう少し広げますと、ご先祖さまもそこに入っていくわけです。ご先祖さまのことを考えて、「自分の今日の一日がどうだろうか」というように、ご先祖さまを自分の生活の目安と考えますと、ご先祖さまも、私たちの心を、生活を明るくしてくれると考えられるわけです。

 明治以降は、神社は神社で、お寺はお寺でという政府の方針がありましたが、私たちが一生懸命に善根(ぜんこん)を積んで幸せになって行こうというところは、お寺であっても、神社であっても差支えないわけですから、七福神はいろいろありますが、神社にもあるし、またお寺にもあるということになります。

 そこで、七福神について名前から申し上げますと、まず最初に、恵比寿(えびす)さま、それから大黒さま、そして毘沙門さま、弁天さま、つまり弁財天です。そして福禄寿(ふくろくじゅ)、寿老神(じゅろうじん)、布袋和尚(ほていおしょう)、この七つの福の神を七福神ということは皆さんご承知のとおりだと思います。今日はこちらの川口の七福神霊場ができて、満五周年という大変記念すべき年を迎えたわけです。ですから、そういう時にあらためて七福神のいわれを考えてみることは非常に意味があると思います。

 さきほど、私の住んでいる寄居にも七福神があるというご紹介をいただきました。埼玉県には七福神の霊場が七つあるそうです。七つのうちの七番目に寄居の七福神ができました。七つというのはまずこの川口の七福神。それから川越、与野、それから入間(いるま)、越生(おごせ)、秩父そして寄居で七つです。それから全国では七十くらいあって、日本七福神協会というのもあるんです。全国各地の七福神霊場の人たちが集まって、そういう出版物も出ているようです。こうして、この十年くらいの間に七福神のお参りが流行(はや)ってきているわけです。こちらは五周年ということですが、私どもは今年のお正月で二回目ですから、先輩の川口七福神の皆さんのご信心を見習って、良いところをいただいて帰りたいと思っております。

毘沙門さまの功徳一覧