玄奘三蔵
玄奘三蔵は、私たちの間では三蔵法師の名で知られています。西遊記、孫悟空という物語として、この夏に公開されている映画をはじめ、これまでにもテレビアニメやコミックで放映・出版されてきました。主人公は孫悟空ですが、その孫悟空の主人が三蔵法師で、中国から遠く天竺(てんじく)【インド】まで、仏教の経典を求めに行く道中記を描いたものが西遊記です。この三蔵法師は歴史上の人物で、七世紀に鎖国政策を引いていた唐の法を犯してまでもインドへわたり、多くの経典を中国に持ち帰り、漢訳事業に情熱を傾けた人物、それが玄奘三蔵です。
この時代に、中国から険しいシルクロードを辿って数千キロを踏破し、インドで二十年近い巡礼・修行の後に帰国しました。帰国後は、持ち帰った大量の経典の翻訳に精魂をかたむけ、1335巻の経典を漢訳しました。この漢訳経典の中には、私たちになじみ深い般若心経も含まれています。この般若心経には「すべての衆生の苦しみを取り除く」「生きとし生けるすべてのものと彼岸【悟りの世界】へわたる」という一節が訳されています。
「どうか願いが叶うなら、自分の仏道修行によって得られる幸せや仏の智慧(ちえ)やご加護が、生きとし生ける迷えるすべてのものに施されて、みんな一緒になって弥勒菩薩のいる世界に生まれ変わって仕えたい……。」この言葉は、玄奘三蔵が自らの死の間際に、弟子たちへ遺した言葉と伝えられています。
いつも、玄奘三蔵は、一切衆生、つまり生きとし生けるすべてのものと共にあるという思いにあふれています。自分の幸福や理想を求めるのではなく、苦しみ悩む私たちとともに、仏に救われたいと心から切に願うのです。そんな熱くて、大いなる想いに、いま、この時代に生きていても胸を打たれずにはいられません。