慈雲尊者 飲光
慈雲尊者・飲光は江戸時代の中ごろに関西を中心に活躍されたお坊さんです。「古くて新しいもの」を広めることにそのご生涯を捧げられました。ちょっと、なぞかけのような言い方ですが、人の生きる道をわかりやすく説かれたお坊さんです。当時の江戸幕府の方針によって、お寺と檀家の関係が強く結びつけられました。人の心を支え、信仰を育む活動がなかなかできない時代に、仏教に救いを求める人たちに、仏教の原点に立ちかえって、人として生きる基本となる生活態度について示しました。仏教を信仰する人々が、本来、必要となる戒めをまとめて、それをわかりやすくはっきりと打ち出したのです。それを十善戒(じゅうぜんかい)と言います。
その十善戒とは「いのちを粗末にしない」「自然や他のものを盗まない」「誤った交わりをしない」「うそを言わない」「言葉をかざらない」「他人の悪口を言わない」「二枚舌を使わない」「物おしみをしない」「怒らない」「物事を正しく見る」というように、人として基本となることを十の項目にわかりやすく短くまとめました。
きちんとした生活態度を保つこと。それを檀信徒に呼びかけ、説き示す慈雲尊者の姿勢は、他のお坊さんからすると真新しくて耳の痛い話だったかも知れません。気のゆるんだ世間で、人々にこうした教えを広めると、多くの人々が尊者の話に耳を傾けました。本来のあり方に立ち戻ること。それは、その当時には新しいことでもあったのです。
心にある「まこと」。それは、人が人でありたいと心の奥底で願うものであり、その願いは、自分自身のあるべき姿、理想でもあるでしょう。その理想のひとつのかたちが佛となるのです。自分自身の中に佛に成る可能性がある。そのまことを身を伏して拝みたいものです。