役行者
役行者という方は、日本の修験道(しゅげんどう)の開祖と言われています。修験道とは、険しい山々深くに入って、肉体的にも精神的にも限界となるまで修行をすることで、宇宙のエネルギーや大自然の霊気を感得する山岳宗教です。自分自身も知らない自らの力や感受性を実感し、さまざまな神秘的・宗教的体験を積み重ねてゆきます。
役行者は、役小角(えんおずぬ)とも呼ばれています。全国の山々を駆け巡り、日本の霊山の多くが役行者の開山と伝えられています。また、桜の名所で知られる吉野山の金峯山寺をはじめとして、奈良・室生寺や琵琶湖竹生島・寶厳寺など、日本で最も多くの寺を開山したと言えるでしょう。
現代を生きる私たちにとって、身体と心の適度なバランスを保つことが、いま、いちばん必要だと考えられています。しかし、健康ブームは、裏を返せば運動不足の不安が作り出しているとも言えるでしょう。また、ヒーリング・ブームは、乾き切って貧しい心を危惧する思いが生み出しているとも考えられます。
便利で快適な生活は、自らの手を汚すことなく、いくばくかの金銭によって、得ることが出来ます。しかし、われわれは、そうした生活スタイルに、知らず知らずに疑問と不安を膨らまし続けているように思えてなりません。それでも、何でも人任せにして、自分で汗をかくことなく、次から次へと自然を食いつぶしてゆく……。
古来より人は、自らの力の至らなさを、自然の中に身を投じて、心身を鍛えることで、その力を補ってきました。いま、私たちは、そのようにして恩恵を享受していた自然を、逆に根絶やしに壊すことで、得るものがあると言うのでしょうか? 自然に包まれて暮らす生き方が、私たちには、いちばん心安らぐのではないでしょうか?