風信(かぜのたより)No.44
お釈迦さまの教えは「どうすれば苦しみから抜け出せるか?」つまり苦からの解脱の方法を具体的に説き明かしました。そのために「人間にとって苦とは何か?」という疑問を徹底的に考えたのです。苦とは思いどおりにならないこと。自分の思いどおりにならないのは、心に執着や煩悩があるから。つまり人が自分の思い込みだけで、独りよがりに物事を見るから、苦しみが生まれるというわけです。
思い込みとか独りよがりになってしまうと、誰もそこには入り込めない、関われなくなります。だから、思い込みからは生きがいも生きる力も何も得られません。苦しくなるだけですよね。それなら、生きがいとか生きる力は、人との関わりによってのみ生まれてくるものとも言えるでしょう。人の力は……祈りから生まれてきます。生きがいは祈ることを積み重ねて育まれます。祈りには大きく分けて2つあります。一つは「今はいのち亡き人の冥福を祈る」。そしてもう一つは「今いのちある人の願いが叶うように祈る」です。
生きている私たちは、欲張りだから自分でも気づかないほど無数の願いを抱きます。でも自分のために祈るだけでは独りよがりですよね。それじゃあ何を祈るのか。今いのちあるものすべての無事を祈る。それが大きすぎるなら、自分を支えてくれる生きとし生けるものの無事を祈ることになるのでしょう。
無事を祈っていれば、祈ることをただただくり返せば、自然に生きる力があなたの中に生まれて、養われます。そして溢れてきます。すると、あなたの生きがいが何か分かってくるはずです。あなたのご両親も、祖父母も、お仏壇に向かって、お墓をお参りして、菩提寺のご本尊さまに手を合わせて祈ってきました。お仏壇の前で朝な夕なに家族の無事を、支えてくれるものの無事を祈ってきました。そしてその無事を感謝する。ご先祖さま、亡き人への供養の誠が、日本人の心を養ってきました。
理屈じゃなく、くり返し無事を祈り、無事に感謝する。我がためにではなく、他がために祈る。他への想いを強く抱けば、それが廻り廻って自分の心に返ってくる。供養すれば自分の身が養われるのです。