風信(かぜのたより)No.49
でも、物忘れがひどくなることが、悪いことばかりとは言えない気もします。人は多くの経験を重ねると同時に、その経験は多くの喜怒哀楽を伴います。お釈迦さまは「諸行無常 一切皆苦(この世のすべてのものは常には存在しない、移り変わる。だからすべて苦しみである)」を説きましたが、すべてが苦しみとしたら、生きていくこと自体が大変でしょう。だから、時に忘れ去ることも、生きてゆくためには必要なことかも知れません。

本当に大切なもの、かけがえのないものなら決して忘れないでしょう。8年前の東日本大震災を初めとして、これまでの未曾有の災害が起こるたびにメディアなどから「私たちは決して忘れない」という著名人のコメントがくりかえされてきました。しかし、数年も過ぎれば、そうした声も行動も少しずつかき消され、忘れ去られようという雰囲気が世間に漂います。被災された皆さんは、この言葉をどんなに励みにしてきたか。でも、そのエールは薄くなり届かなくなる現実の中で私たちは暮らしています。
そして……、自分自身を振り返った時、その足元を見つめてみると、今この自分を支えてくれている多くのものへ、私たちは自らのまなざしを向けているでしょうか? 今いのちあることを「ありがたい」と実感し、今はいのち亡き存在の冥福を祈り、感謝の念をこの内に抱いているのでしょうか?
