風信(かぜのたより)No.79
人と逢ったり、ちょっと会話を弾ませたり、お酒を飲んだり、芸術やスポーツ、レクリエーション等をこれまでのように思い切り楽しむことができない。そんな思いもよらないこの日常は、一体いつまで続くのだろうかと思うと息がつまるほどでした。なかなか人に逢えない、外出にも気を遣う。そんな状況にちょっとおススメしていたのが……、お経を読んだり、お経を写したり、さらには仏さまを描き写してみる。今までの日常とは少々異なる気分を実感できる。

仏さまの説いた教えがお経です。漢字ばかりが並ぶ難しい文章を理解するには、解説書などをたよりにするとか、かなり面倒でしょう。でもお経は、日本に仏教が伝わって以来、ずっと言われてきたことがあります。それは、お経をくり返し読む、何度もお経を書き写す。その行為をくり返し積み重ねると無量の功徳が得られ、願いが叶うというのです。また、亡き人のご冥福を祈ることで救われると、お経に説かれています。難しい教えを学び理解することも大切。でも、それは大変だから、まず出来ることをくり返しやってみよう、と迷える衆生に語りかけ、救いの道を指し示しました。
なぜなら、お経は仏さまの教えで、言いかえれば仏さまが説いた言葉です。その仏さまの言葉を同じようにお唱えすると、仏さまの言の葉の響きが、今この瞬間に自分の口の中に同じように響きます。すると、自然とこの身が仏さまの響き、波長を味わうことへとつながります。

仏さまを感じる瞬間は、お経を読む刹那に生まれます。そして写経も同じです。仏さまの説いた教え、経文をこの手で書き写す。それは仏さまの教えを手から感じ取ることになります。お経をお唱えするのと同じように、お経の一文字一文字を、時間をかけて書き写す。そうすると自然と心が落ち着いて、自身の中にゆっくりとした時の流れが生まれます。
皆さんが菩提寺の吉祥院でご法事を行う時、通夜の席で、またお家のお仏壇の前で亡きみ魂やご先祖さまに手を合わせる時、やさしいお経(勤行聖典)を読む機会があるでしょう。
その刹那、あなたがお経を唱えると、その口から発せられた響きは仏さまと同じもの、同じ境地を感じられるのです。その時、あなたはきっと、安らかなる心をいつの間にか自然と感じることになります。