真言宗智山派吉祥院珍珠山

仏教コラム

仏のことばを読む六. 般若心経   その4

③忍辱波羅蜜多
 忍辱とは文字どおりには「辱(はずかしめ)を忍ぶこと」ですが、ここではあらゆる忍耐を意味します。修行におけるあらゆる侮辱・恥辱や迫害に耐え忍び、反抗したり怒ったりしないことです。大乗仏教が展開する過程で、それまでの伝統教団からは「これは仏の教えではない」といった非難がさまざまにあったことが経典からうかがい知れます。おそらく相当の妨害や迫害があり、それにも屈することなく、しかも自らの進むべき道を見失わず、多くの修行者が大乗仏教という新しい教えを広めたことでしょう。特に『法華経』では、非難や妨害や迫害に耐え忍ぶことが強調されています。どのような迫害にあっても、常に相手を軽んずることなく恭(うやうや)しい態度をとる「常不軽(じょうふぎょう)菩薩」の忍耐は有名です。『法華経』の熱烈な信者であった宮沢賢治の手帳に書き記されていた「雨ニモマケズ」という詩には「みんなにでくのぼうとよばれ」という一節がありますが、それもおそらくこのような精神を身につけたいという願いだったのでしょう。この忍辱こそが、外からの修行の邪魔に対して身を護(まも)る手段だったのです。仏教の精神では、攻撃されたら仕返しをするという考えはありえません。ただじっと耐えて真実の道を見失わないようにしなければならないのです。

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