仏のことばを読む三. 十善戒 その2
諸悪莫作 諸善奉行 自浄其意 是諸仏教【『法句経』(ほっくきょう)『大般涅槃経』(だいはつねはんぎょう)他】
【諸の悪を作すこと莫なかれ 諸の善を行じ奉り 自ら其の意を浄めよ 是これ諸仏の教えなり】
現代語にすると次のような意味になります。「さまざま悪業を行うことを抑えなさい。そして諸々の善い行いを心がけなさい。そして自らの心を清めることに努めなさい。これはすべての仏の共通した教えなのです。」
この教えを「七仏通戒偈」というのは、釈尊以前に仏になった者が六人いたと想定し【過去七仏】、どの仏も等しく説いたこの教えこそが根本であると考えたのです。その教えの要(かなめ)は悪業を抑え、普業に励み、心を清らかに保ちなさいということです。言い換えれば、仏教にはさまざまに難解な教えが説かれていても、すべてはこの教えに帰省すると考えられていたのです。そして日本の各宗派でもこの考えはとても尊重されました。
江戸時代の真言宗の僧侶であった慈雲尊者(じうんそんじゃ)【1718~1805】は独自の梵語(ぼんご)研究で学問的に高い評価を得ていますが、単に学問僧であっただけでなく、庶民に仏教をやさしく示すために『十善法語』を著(あらわ)しています。十善戒こそ庶民が仏教信仰に甚づく道徳的な生活を確立ずるために必要であると考えていたのです。
また、幕末から明治期に活躍した真言宗の釈雲照律師(しゃくうんしょうりっし)【1827~1909】は慈雲尊者の影響を受け、新しい時代の国民道徳教育の根本に十善戒をすえるため、在家の仏教団体「十善会」を設立しました。