真言宗智山派吉祥院珍珠山

仏教コラム

仏のことばを読む四. 発菩提心 三昧耶戒の真言   その3

 先に真言はその一音一音を意味が分からないままに唱えることが肝要であると述べました。しかし、多くの真言は梵語(サンスクリット)で書かれており、そこには意味が読みとれます。そして意味が分かると、さらに真言を唱える意義を理解しやすくなることもあります。そこで真言を記して、その梵語での意味も記しておきましょう。

(オーン 私は菩提心を発します)
 冒頭の「オン」というのは聖なる語とされています。古代インドの宗教では、神々への祈りの最初にこの「オン」を唱えたり、あるいはバラモン教の聖典であるヴェーダを読誦する前と、唱え終わった後でも「オン」と唱えます。この「オン」という音自体が聖なる世界へと私たちをつなげるのです。これはキリスト教徒が祈りの中で「アーメン」と唱えるのに似ていると指摘する学者もいます。このような聖なる音が仏教にも取り入れられ、真言の冒頭で唱えられるようになったのです。
 「ボウチシッタ」は「菩提の心」という意味です。「菩提の心」については前に説明したとおりです。「ボダハダヤミ」とは少し梵語の面倒な音の連結規則がありますが「私が発します」という意味になります。発菩提心の「発」は「私」の強い気持ちを表しています。
 弘法大師は「迷悟は我に在れば、発心【発菩提心】すればすなわち到る」【『般若心経秘鍵』】と述べています。すなわち発菩提心は真言密教の心構えの出発点であると同時に、「菩提という心」という終着点でもあるのです。この深い意義をふまえて真言を唱えましょう。なお、菩提心という自分の心を清浄な満月に譬えることがあります。そこで瞑想においてこの真言を唱える時は自分の心を清浄な満月のイメージで見つめながらこの真言を唱えます。

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