仏のことばを読む六. 般若心経 その13
①色蘊(しきうん)…肉体としての要素で、正式には眼・耳.鼻・舌・皮膚の感覚器官と、その対象となる視覚対象【色(しき)】・聴覚対象【声(しょう)】・嗅覚対象【香(こう)】・味覚対象【味(み)】・皮膚感覚対象【触(しょく)】の合計十の要素と無表色(むひょうしき)というものの十一の集まりを色蘊といいます。梵語の和訳では「肉体」と訳しておきましたが、正確には外界から感覚されるものも色蘊に含まれます。漢訳の「色即是空」という場合の「色」はこの色蘊を指しています。それを「色」と名づけている言葉がダルマ【法】というわけです。
②受蘊(じゅうん)…感覚を構成する要素の集まりをいいます。
③想蘊(そううん)…言葉が生み出す観念や概念、あるいは言葉で思い浮かべる働きをいいます。
④行蘊(ぎょううん)…もともとの意味は「形成作用」ですが、心の中の働きで、認識を促す力とも考えられています。難しく表現すると「潜在的な認識形成作用」であると解釈しています。そのような意味をふまえて、和訳では行を「潜在的意思」と訳しておきました。
⑤識蘊(しきうん)…外界の事物を感覚や知覚によって自己の内に浮かべる作用です。これは眼識(げんしき)・耳識(にしき)・鼻識(びしき)・舌識(ぜっしき)・身識(しんしき)・意識の六つに分類されます。眼識とは視覚機能【眼根(こん)】によって自己の内に色彩や形態を浮かべる働きです。耳識・鼻識・舌識・身識も同様に感覚機能【耳根・鼻根・舌根・身根】によって外界の事物を自己の内に浮かべる働きです。それらの感覚によって自己の内に取り込んだ情報を、言葉によって明瞭に認識する働きが意識です。この識をめぐってはさまざまな論争があり、般若経の影響を受けた喩伽行派(ゆがぎょうは)という学派では意識の背後に深層意識を想定するようになりました。
以上の色蘊・受蘊・想蘊・行蘊・識蘊が心身を構成する要素の集合体として五蘊といわれています。この五蘊がさまざまに組み合わされて私たちの心身は構成されています。そして、その組み合わせは前世からの業の影響力によると考えられ、五蘊の組み合わせは縁による仮のものにすぎないとされ、それを「五蘊仮和合(ごうんけわごう)」といいます。例えば私たちは前世の業によって仮に人間特有の五蘊が仮和合していますが、犬や猫は別の形で五蘊が仮和合しています。そして、同じ人間でありながらも、姿や心持ちが異なるのはそれぞれの五蘊仮和合のしかたが違うからです。そして五蘊の組み合わせがなくなり、それぞれがバラバラになった状態が死と考えられました。